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「立ち直り中」MVを深読みして考えてみる

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ミシンを使ったことがありますか?

高速で送られていく布の上に、規則正しく等間隔にひたすらまっすぐ同じ縫い目を刻んでいくミシン。

乃木坂46の11thカップリング曲「立ち直り中」MVは、ミシンを使う紡績工場で働く女性の物語。

監督は「あの日 僕は咄嗟に嘘をついた」や「無口なライオン」でおなじみの湯浅弘章監督です。乃木坂以外では、「パトレイバー」や「ワカコ酒」なども手がけられています。

淡くて美しい映像、ドラマ仕立てのストーリー、話の核となる部分に明確な答えを出さないラストシーンが特徴の湯浅監督。いつも見る人の解釈にゆだねるような描き方をされています。

このMVも人によってさまざまな解釈ができそうなので、さっそく私も深読み考察!

まずは人物設定。

このストーリーは紡績工場で働く7人の女性、中でも橋本奈々未さん、白石麻衣さんを中心に描かれています。

本編の大半は曲が流れていてセリフ音声がないので、無音の演技パート、MV冒頭とラストのセリフを元に、まずは人物設定を考えてみます。

●ハシモトナナミ

橋本奈々未さん演じる主人公。あとで詳しく書きますが、名前はハシモトナナミ。内向的で人と積極的に関わりを持てない性格。

幼い頃に母親が自分の元を去り、その理由がわからないまま時が経ち、いまだに引きずっている。内向的な性格を、自分を捨てた母親のせいにしている。

●マイ

白石麻衣さん演じる、ナナミの幼なじみ。平凡な毎日とそこから抜け出せない自分に焦りを感じている。

ナナミのよき理解者であり、母親との一件を断ち切って前に進んでほしいと願っている。

●職場の仲間たち

秋元さん、衛藤さん、高山さん、深川さん、松村さん。

世の中への不満を嘆くものの、それを変えるために動き出そうとはせず日々を過ごす職場の仲間たち。

ただ、深川さんだけは他の4人と一線を引いた人物設定になっていて、湯浅監督自身を投影させているようにも見ることができます。

そしてミシンを使う紡績工場は、ミシンの縫い目のように「変わらず繰り返される毎日」を象徴しています。

立ち直り中。

MV冒頭から順を追って深読みしていきます。

幼なじみのマイと共に紡績工場で働くナナミは、子供用のドレスを縫っている。

自身が子供の頃のことを思い返して指をケガしそうになり、マイの一言で我に返ってミシンを止める。

ナナミがいまだに子供の頃のことをひきずったままでいること、そんなナナミの繰り返す毎日をマイが止めてくれることを表しています。


終業後、口々に現状の不満をもらす仲間たちに「世の中に不満があるのなら、まず自分を変えること」と話し、そのために自分が工場を辞めて「テレビの中の人になる」ことを伝える。

それを聞いた周りの仲間たちは「えーなにそれ!」と笑う。

マイの「世の中に不満が…」のセリフ、「テレビの中の人になる」という宣言は、自分の力で悲しい過去から立ち直ってほしいという願いを込めて、仲間たちではなくナナミに向けられています。

そして深川さんのセリフ、「本物のアイドルとかに会ったら、自分もなりたいって思うのかもね」は、このあと結果的にアイドルになるマイに影響されて変化していくナナミを暗示しています。


帰路の途中マイはナナミにもっと仲間と打ち解けるよう勧め、自分にとって特別な場所である廃園となった植物園へ案内する。

散らかった植物園をふたりで片付けるようになり、そのうちやって来た他の仲間とナナミは打ち解けることができる。

植物園で片付けを始めるところで「立ち直り中」の曲が始まります。

そのことからも、廃園となった植物園での時間は、「自分の抱える問題と向き合い、立ち直る時間」を表していると考えられます。

仲間たちがやって来てナナミは戸惑いますが、それも乗り越えて仲間と打ち解け、マイにとって気掛かりだったことが解決します。


ナナミが仲間と打ち解けられたことを見届け、マイは街を出る。

再び大切な人が去ってしまったことでナナミは落ち込み、以前のように繰り返すだけの毎日を過ごす生活に戻ってしまう。

そしてしばらく時が経ち、ナナミはテレビに映るマイの姿を見つけて気を取られ、ミシンで指にケガをしてしまう。

今まではマイが自分を見ていてくれたからケガをしなかった、つまり、ただ繰り返す毎日からマイが救ってくれていたことにあらためて気づき、ナナミは涙を流します。

そしてようやく「世の中に不満があるのなら、まず自分を変えること」の意味を知り、今度は自分自身の力で立ち直る決心をします。


やがてナナミは結婚し、子供が産まれ、お母さんになる。子供との帰り道、あの頃に訪れた植物園に立ち寄り、そこでマイと再会する。

ナナミは完全に立ち直り、子供と幸せに暮らしています。白いメガネは「心の変化」の象徴です。

最後の植物園のシーンはナナミの空想。マイは実際には街に帰ってきていません。

植物園にいる子供は幼少期のナナミ自身で、「ハシモトナナミ」と名乗ります。

自分を立ち直らせてくれたマイへの感謝や尊敬から、ナナミはマイに母親の姿を重ね、「おかえり」と声を掛けます。

そしてラスト。マイを見上げてなんとも言えない表情をする幼少期のナナミ。

このシーンの意味は、

いま実際に母親になったナナミ自身と、捨てられた幼少期のナナミと、両方の視点から自分の母親を理解しようとしている

のではないでしょうか。

つまり、一見立ち直ったかに見えたナナミですが、やっぱり自分を捨てた母親のことはどうしても理解できずにいた。

母親になったナナミはいままさに、あのときの母親を理解しようとしている「立ち直り中」なのです。

まとめ。

つらつらと書いてみましたが、「テレビの中の人」という遠回しな表現、マイのカメラ目線、髪飾り、ナナミがマイに叫んだセリフ、マイの挫折シーン、深川さんの存在などなど。

気になるセリフや演出がちりばめられているのに、自分の深読みストーリーにうまく結び付けられなかったポイントがいくつもあります。

ここに書いた解釈のほかに、冒頭で母親に捨てられたのはナナミではなくマイなんじゃないか、なんて方向からも考えてみましたが、それはそれでまた違うストーリーが見えてきて面白いです。

曲も映像も美しいので、その映像世界に身を任せてぼーっと見てしまいそうになりますが、本当にいろんな解釈のできるMVだと思いました。

なにか思うところ、自分の解釈はこうだ!などありましたら、下のコメント欄やツイッターで教えてください。


「立ち直り中」予告編


追記:2017/4/26

執筆からだいぶ経ちましたが、ひょんなことから新たな気づきがありました。

マイの「世の中に不満があるのなら、まず自分を変えること」というのは、甲殻機動隊の主人公 草薙素子のセリフ引用のようです。

「GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊」は、湯浅監督と非常に関わりの深い押井守さんの監督作品。


9件のコメント
  • ハシモトう より:

    帰っくるからねといった母親が実はアイドルになる為に旅立った。
    そして、帰ってきたマイはアイドルになって成功した、そんな成功して帰ってきたマイがもし自分の母も成功して帰ってきてたらと思って母とマイを重ねてのシーンじゃないかなと思います。
    まいまいが冒頭で「本物のアイドルに会ったら自分もなりたいと思うのかもね」とあります。最後の子供ナナミはそんな本物のアイドルに会って自分もなりたいと思っての顔だなと思います。つまり、仮にアイドルになって成功して帰ってきた母親を見れてたらアイドルになりたいと思ってたんだろうなという空想シーンだと思います。

  • おかだ より:

    昔、永福町駅から道路を渡って大勝軒の脇の道を進んだ先のアパートに住んでる彼女と付き合ってました。
    青春の思い出。
    いい歌です。
    白石麻衣と橋本奈々未の友情が今となっては感慨深いです。
    現実では橋本奈々未が先に乃木坂から旅立ってしまった。

  • 花は葉のメタモルフォーゼ より:

    映像作品を解釈してみました。

  • 匿名 より:

    自分も乃木坂のCDは全タイプ持っており表題曲よりもカップリングやアンダー楽曲を中心に聞いてますがあまりこの曲は食わず嫌いだったような気がします。この曲を聞いてみようと思ったきっかけは三期生の一人・・・山下美月だったかな、好きな乃木坂の楽曲としてこれをあげたんだよね。自分としては「隙間」を推すメンバーがいなかったのが不満でもあったんですが。それにしても湯浅さんは深いね。自分はまいやんは死んだものって思ってたけど帰ってなかったんだね。湯浅さんといえばどうしても万理華のことなんだけどあの二人がまたものすごいものを見せてくれそうな気がしてます。湯浅さんには万理華を見放さないでほしいって思ってる。彼女は乃木坂に気をとらわれないで本当に芸術に全精力を傾ければ絶対世界に出ていける人になれるって思ってるから。

  • たかむ より:

    すごくいい曲だね、

  • 匿名 より:

    ラストシーンの意味が分からないなーと検索してここに辿り着きました。マイが実際に帰ってきたわけではない、という部分がとても参考になりました。これを踏まえて何度も見返してみようと思います。MVに定評のある乃木坂でも、屈指の作品だと思います。

  • ハコブネ より:

    まいやんの中学生時代の不登校にリンクしてる部分あるのかなと思いました、だからテレビの中の人になって自分自身が立ち直って行くと言う意味合い?
    私には仲間もいるよと言うメッセージ?
    勝手に自分解釈です。

  • より:

    「自分を変えろ、というあなたは、どんな自分になりたいんだ」という詞が、福山さんの歌にありましたね。
    自分を変える、は軽い言葉なので、僕は嫌いなのです。
    でも・・・、マイは、ナナミのために、違う人生の可能性を追求しようとして見せた、という解釈に、驚きました。
    一方で、製造業のほうが、芸能人より実直であるわけですが・・・。
    そのどちらも否定せず、どちらもそれぞれ辛い所を描いていて、いいMVだと、思います。
    おかえり、と言ってもらえる、というところで、人の 縁 を・・・。

  • 匿名 より:

    マイの存在自体が謎な部分がありますよね。

    なぜナナミの母親のような存在であるのか?

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